前回、スクエニが発表した今年度の決算短信から、
『ドラクエ10』が堅調に収益を上げている事を確認しました。

では、稼いだお金はどんな使われているのでしょうか?


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営業収益が開発にも適切に回っているのは、
有価証券報告書のキャッシュフローを見ると、よく分かります。

有価証券報告書

第34期(2014年度) 有価証券報告書
www.hd.square-enix.com/jpn/ir/pdf/fs_20140630_01.pdf

キャッシュフローは、営業・投資・財務の3つの活動からなりますが、
スクエニの有報では、営業活動で得た収益(プラス)で、
新規開発に投資(マイナス)し、借金まで返済(マイナス)しているとあります。

4~5年前にやたらお金が動いてるのは、
タイトー社およびアイドス社を子会社化した際の投資と、その返済分です。
それを除いても、去年の損益も今年できっちり取り返してますから、
スクエニの財務状況は極めて健全だと言えます。

つまり「超」が付く優良企業って意味です。
普通に考えれば、開発に滞りが出るとは思えません。




ではなぜ、それが進捗アップに繋がっていないのか?


疑問の答えは、『ドラクエ10』がスクエニ内製である事と、
2年前の社長交代劇にあります。





2012

2012年3月期決算説明会
www.hd.square-enix.com/jpn/news/pdf/20120601_01.pdf


2~3年のダメージをくらう…だと…?



チュンソフト

ドラクエシリーズは前作まで、全て外注制作でした。

 Ⅰ  : チュンソフト
 Ⅱ  : チュンソフト
 Ⅲ  : チュンソフト
 Ⅳ  : チュンソフト
 Ⅴ  : チュンソフト
 Ⅵ  : ハートビート
 Ⅶ  : ハートビート
 Ⅷ  : レベルファイブ
 Ⅸ  : レベルファイブ


『ドラクエ10』は、シリーズ初のオンラインゲームというだけでなく、
開発も全てスクエニ社内で行われた最初の作品です。


ゆえに、これまで以上に人手がかかります。


役員異動

そんな状況で、FFシリーズの隆盛を担った和田洋一前社長が、
『FF14』の大失敗と、会社に大きな損益を出した責任を取って辞任。

『FF14』は、中国展開を見込んだ綿密な事業計画とは裏腹に、
開発スケジュールの見通しががばがばで、
至る所にコストカットの跡が見られるひどい出来でした。

要するに、人手をかけていませんでした。

※ 中国に外注に出していたという噂については、
  もし本当なら外注制作費が有報に記載されているはずですが、
  当方では確認できませんでした。



クロコダイン

結果、バグまみれのクソゲーとなった『FF14』を新生させる為、
社内の多くの人材が異動の憂き目に遭いました。

新生までに設定された開発期間は2年8ヶ月。
総力を結集しなければ成しえない短さだと言えますし、
これが成功するまでの間は、他の部署に人材が回される事もありません。


旧『FF14』を作った後に人員整理もやっちゃったもんだから、
立て直しに余計に時間がかかった事も想像出来ます。

IR情報:株主の皆様へ(2010年度)

人員整理

 人は城、人は石垣、人は堀



現在のスクエニは、確かに収益は黒字ですが、
2年前の人的リソース損失のツケを払い続けている状況にあります。
安く仕上げようとしたのが、かえって高くついたのです。

『ドラクエ10』は内製であるがゆえに、社内人事の影響をもろに受け易く、
吉Pやフジゲルが離れた今、人手不足に陥ってると見られます。


そしてそれがおそらく、開発が進まない理由です。


『10』は、社内スタッフがばんばん投入されたからこそ、
高いクオリティを維持してきました。
数多くの人材が他のゲームの開発にシフトされた今の状況で、
Ver.1の頃と同じ盛りだくさんの内容にしていくのなら、
それはもう、時間をかけるしか無いと思います。


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人手もコストがかかるなら、前作までのように外注に出せば良いはずですが、
それではたして、今のクオリティが維持出来るでしょうか?

次回は、スクエニ内製であったからこそ出来た、
ストーリー設計の妙技に迫ります。

お金と人の話(3)に続く)