アストルティア考古学の28回目は、
中島諭宇樹先生の漫画、『蒼天のソウラ』の考察になります。

なお、ストーリーのネタバレを含んでますので、
その点をご同意頂ける方だけ、続きをご覧下さい。

【アストルティア考古学シリーズ】
 ・ 短評Ver.1 冥王編 神話篇
 ・ 短評Ver.2 蒼天のソウラ

 ・ 配信クエ カミハルムイ メギストリス
 カンダタ ダーマ

 ・ 光と魔瘴 1 2 3  ・ 赤い月 1 2
  ・ レンダーシア大陸 1 2
 ・ 錬金術 1
 2 3  ・ 創生の渦 1 2  ・ 運命の特異点 1 2
 ・ 光の勇者 1
 2  ・ 叡智の冠 1 2  ・ 竜族と創造神 1 2 3
 ・ 進化の秘法 1
 2
 

蒼天のソウラ

(引用:ドラゴンクエスト 蒼天のソウラ 特設ページ


こんにちは、中の人です。

さて今回は番外編、伝説の三悪魔カードを目当てにVジャンプ1月号を買ったら、
蒼天のソウラ』に爆弾ネタが載ってたよってお話です。


―――


ロザリー

とっても個人的な話になるのですが、私は副読本の類はあまり読みません。
メディアミックス作品からのオリジナル設定が、
ストーリー本編考察のノイズとなりかねないのを避けているからです。
『モンスターハンターオラージュ』でもう懲りごり。

『ソウラ』も勝手にそうなるだろうと思い、読んでなかったのですが、
どうやら私の不見識だったようで…。


Vジャンプ


Vジャンプ1月号143ページ、『蒼天のソウラ』第二十四話内の5ページ目で、
太古龍(エイシェントドラゴン)を名乗る溶岩龍ブライドンが、
<原質(アルケー)>という言葉を使っていました。


さらに同号157ページ、話内の19ページ目では、


 アタクシはブライドンであってブライドンではないのザマス

 アタクシはブライドンという太古龍の<原質>から肉体を預かる
 <仮面(ペルソナ)>の人格ザマスよ



とあります。


アルケー

アルケーについては、創生の霊核の考察で触れたばかり。
古代ギリシャ哲学において、宇宙を創り出したとされる物質の"根源"の事です。

アルケーに当てられた「原質」という漢字は、具体的に錬金術用語を指しています。
原質(principes)とは、あらゆる物質の母体の事で、
学派によって呼び方が異なり、第一質料とか言ったりします。


原質=アルケーだと定義したのは、中世頃に実在した医師・パラケルススです。
面白い事に、本名を「ホーエンハイム」と言います。

鉱山病の原因が水銀中毒である事を突き止めたパラケルススは、
人間の肉体に変性を及ぼす水銀の性質に着目し、梅毒の治療に用い始めました。
重金属の中でも、特に人体への影響が大きかった硫黄や水銀は、
毒にも薬にもなる強い変性作用が、錬金術の結果にも良い方向に働くと考え、
人体精製の原材料として使用するようになります。


ペルソナ


ペルソナについては、今や女神転生シリーズで有名です。
個人の人格(personal)の語源である、仮面性(persona)の事です。

心理学者ユングが命名した、ご周知の通り人間の外的側面を表す言葉なんですが、
ユングはアリストテレス派の学者であり、錬金術に強い関心を持った人物です。
同じ医師であるパラケルススの研究成果を心理学流にアレンジし、
『心理学と錬金術』という著書を1944年に発表しているほど。

ユング心理学では、人間に宿る精神は、肉体とは分離して存在し、
脱皮して自ら再生するウロボロスのように、輪廻転生すると定義されています。
これらの着想の基底には、錬金術の宇宙観があります。


蒼天のソウラ


「原質」と「仮面」―

『蒼天のソウラ』の第二十四話に出てきたこの2つの言葉は、
錬金術に精通した2人の学者を明確に指しています。
しかもそれを輪廻転生を繰り返す太古のドラゴンの台詞としてしゃべらせている。
なぜ「肉体」とか「精神」といったありふれた言葉ではなく、
学者が使うような難しい専門用語が当てられているのでしょうか?

理由は1つしかありません。
その背景に錬金術の謎が隠されているのを悟らせる為でしょう。


アルケーとペルソナの定義が、中島先生のオリジナル設定だとは私には思えません。

『ドラクエ10』のストーリーが錬金術と深い関わりがあり、
Ver.2.4では、まさにその根源(アルケー)が登場しようとしているからです。
アンルシアの兄・トーマが一度死んだ後に人格(ペルソナ)を入れ替えられたのも、
ウロボロス思想と無関係では無いと考えています。


奈落の門


『ソウラ』の連載開始は、2012年の12月21日。
『ドラクエ10』の本編では、まだVer.1.2が公開された辺りです。
一方、本編の方で錬金術との関わりが示唆されたのは、
追加パッケージとなるVer.2.0が発売された、2013年の12月5日以降です。

つまり中島先生は、本編でも根源の力が登場するのを1年前に把握し、
予め念頭に置いた上で、太古龍に纏わる話を展開させていた、という事になります。


無生物を生物に変える進化の秘法のような能力を伏線にしていたのも、
そして今回、錬金術用語をわざわざ選択して使ったのも、
本編制作しているスクエニ監修の下にあったから、と考えると、筋が通りますね。


―――


しかし冒頭に挙げた爆弾ネタとは、この事ではありません。


竜族


飛竜の長がなぜ、竜族以外の五種族を「下等種族」であると断言したのか?

その答えを、太古龍ブライドンはずばり言っちゃってるんです。


『蒼天のソウラ』がスクエニの監修を受けていて、
『ドラクエ10』の本編とも密接にリンクしていると仮定するなら、
竜族は脱皮して生まれ変わる事が出来るのに対し、五種族はそうでないから
そう考えれば、竜族の長の台詞にも納得がいきます。



より踏み込んで考えてみましょう。


エテーネ村で生まれた3人の運命の子供達。
このうち2人までが生き返しの儀を受け、別の肉体に転生してますよね。
しかも片割れの方は、竜族と関わりがあると見られています。

エテーネの民が、もともと竜族の血を引いているのだとしたら、
ウロボロスのように輪廻転生したり、別次元である偽りの世界に超越したり出来るのも、
全ての辻褄が合うような気がするのです。


結論: エテーネの民は竜族の末裔かも?


まさかの『蒼天のソウラ』から結論を頂けるとは…。
コミカライズ作品、あなどりがたし。


切法師


余談ですが、中島先生は読切作品のストーリー構成を評価されて、
週刊少年ジャンプでの連載が決まった方だったと記憶してます。
ジャンプ本誌では、今でこそ『ワールドトリガー』などの
ストーリー性を重視した作品が人気を博するようになりましたが、
中島先生の漫画が連載されていた2005年頃は、
読者アンケートを重視しすぎたのか、分かりやすい話を提供する作家さんが残り、
凝った話を作る作家さんは、軒並み打ち切られていました。

中島先生の連載も打ち切りの憂き目に遭いましたが、
あれから10年、当時の読者も成熟し、今なら面白さが伝わるはず。


単に監修を受けただけで、良い話が生み出せる訳ではありません。
中島先生の高いストーリーテリングに裏打ちされたからこそ、
『ドラクエ10』の深甚な世界観が忠実にトレースされているのだと思います。


【追記】
蒼天のソウラ 特設ページにて、最新の第二十四話が
期間限定で無料公開(ダイレクトで飛びます)されていました。

ソウラの無生物を生物に変える力が、本編で言うところの創生の力である事を
錬金術の専門用語を使って説明する回です。
Ver.2.4のストーリーを先取りした内容になっていると思いますので、
この良い機会に是非ご覧になってはいかがでしょうか?